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マーク・ガール氏 インタビュー
ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団でバストロンボーン奏者として活躍し、ウィーン国立音楽大学で教育活動も行っているマーク・ガール氏に、ご愛用中の楽器や、2020年11月のウィーンフィル来日について、書面インタビューにて伺いました。(2020年11月、東京にて)
多くの可能性を奏者に与えてくれるトロンボーン
現在ご使用されているトロンボーンの機種を教えてください。
ガール(敬称略) ウィーンフィルとウィーン国立歌劇場でバストロンボーンを演奏する際には、〈B&S〉“マイスタージンガー MS27”を、ウィーン=ベルリン・ブラス・クィンテットとウィーン国立歌劇場でテナーバストロンボーンを演奏する際には、“マイスタージンガー MS14”を使っています。
なぜ〈B&S〉を選んだのですか。
ガール 以前はアメリカ製のトロンボーンを吹いており、オーディションは全てその楽器で合格しました。とても良い楽器でした。しかし、ウィーンフィルで演奏するようになってから、他にも何か必要なものがあるのでは、と思うようになりました。それまで使用していたトロンボーンの音色は、ウィーンフィルの伝統的なオーケストラにはあまり合っていなかったのです。
そこで新しいものを探し始めたところ、2011年のザルツブルク音楽祭でゲルハルト・マイネル氏(訳注:金管ブランド〈メルトン・マイネル・ウェストン〉のマイネル家7代目当主)に出会い、〈B&S〉“マイスタージンガー MS27”の初期のプロトタイプを試奏することができたのです。試奏してすぐさま感動しました。プロトタイプはその後、各所に少しずつ変更が加えられましたが、全体的には最初から優れた楽器だったからです。それが始まりです。
“マイスタージンガー MS27”のどのような点が気に入っていますか?
ガール まず、表現できる音色の幅が非常に広いことです。音の色彩において、これほどまでに多くの可能性を奏者に与えてくれるトロンボーンを、私は知りません。トランペットと一緒に演奏する際には少し明るい音色で合わせることができますし、B♭テューバと演奏する際には本当に深くて暗い音を出すことができるのです。
また、ダイナミックスも素晴らしいですね。私はベルクランツつきのモデルを使っていますが、完璧で、必要に応じて力強い音色を聴衆に届けることができ、メゾフォルテで吹いてもフォルテのような音を出すことができます。また、逆に”ブラッシーに(やかましく)“なりすぎずにパワフルに演奏することもできます。
さらに“マイスタージンガー MS27”は、全音域で吹奏感や音程にムラがなく、2つのバルブを使っても吹奏感が変わらず演奏できます。数ある長所の中でも、個人的にはこれが一番気に入っている点です。抵抗感は自分にちょうど合っていて、心地よく感じるため、音のアタックも極めて容易です。
ウィーンフィルは独特の楽器を使用しているパートもありますが、何かカスタマイズされているのでしょうか。
ガール 楽器本体はお店で売っている楽器と変わりませんが、さらに高みに昇るために、最近カスタマイズしたリードパイプを試しています。「こうするためにはどうすればいいのか」ということを考えずに、できるだけ自然に楽器に入り込んで演奏することを模索していた私にとって、このリードパイプは手助けとなっています。
また、ビュッフェ・クランポン グループが開発した最新の「ICON ™ バルブ」(アイコンバルブ)を昨シーズンから使っています。実は私は「ICON ™ バルブ」の開発に初期段階から関わっており、自分自身がまさに欲しかったものを製品化してもらうことができました。「ICON ™ バルブ」は軽いロータリーで、素早く反応し、息が沢山はいります。扱いやすく、手入れも簡単です。
“マイスタージンガー MS27”から特別に得られたものはありますか。
ガール 私がこの楽器から得ているのは、ウィーンフィルの音色を演奏できるという絶対的に完璧な能力です。伝統的なスタイル(ドイツ式トロンボーン)でありながら、全く新しく現代的なシステムを兼ね備えているため、古い楽器の欠点がありません。
ガールさんにとって楽器とはどのような存在ですか?
ガール 私が楽器をやりたいと思ったのは、まだ幼い頃、地元の吹奏楽団がカーニバルのコンサートで演奏しているのを見たのがきっかけでした。自分の目標を超えてここまでやることになるとは、誰も予想していなかったでしょう。
楽器を演奏することは、ある意味では常に楽しんでやってきたことであり、もちろん今の自分に至るまでに何時間も何時間も練習してきたことは忘れられませんが、とても楽しく、それによって自分が幸せになれることです。自分の感情を直接観客に伝えることができる楽器があることを嬉しく思っています。
2020年という特別な年に来日して演奏していただけることは我々にとって嬉しいことです。ウィーンフィルのメンバーとして、日本に対して特別な何かを感じていらっしゃいますか。
ガール ウィーンフィルは日本と本当に素晴らしい関係を築いています。日本の人たちはウィーンフィルを愛してくださっていますし、我々は日本に今いることができて幸せです。ツアーで久しぶりに東京に来ると、まるで家に帰ってきたような気分になります。私たちの間にこういった特別な絆がなければ、この2020年という年に来日することはなかったと思います。双方がこのツアーを実現させるために大変な準備をしました。日本政府、サントリーホール、スタッフの皆さん、皆が不可能に近い仕事をこなして、その結果、今私たちは日本にいるのです。
来日してからのコンサートはどれも素晴らしく、私たちはとても楽しんでいます。日本の聴衆はとても集中力があり、ステージにいる私たちにエネルギーと緊張感が伝わってきます。これ以上私たちが愛せるものがあるでしょうか。
日本で楽器を演奏する人々に、メッセージはありますか。
ガール 私たちは、現在活動できている限られたオーケストラの一つであることを十分に認識しています。芸術の力を信じて、お互いに強くあり続けましょう。芸術なくして、人間らしくあることはできません。
素晴らしい演奏を、ありがとうございました!
2020年11月のウィーン・フィルハーモニー管弦楽団来日ツアー中の写真。左から、ヴォルフガング・シュトラッサー氏、マーク・ガール氏、クリストフ・ジグラー氏、ディートマル・キューブルベック氏。ツアー中、トロンボーンセクションの3名が〈B&S〉、ジグラー氏が〈メルトン・マイネル・ウェストン〉の楽器を演奏した。
※ ガール氏が使用している〈B&S〉“マイスタージンガーMS27”の紹介ページはこちら、
“マイスタージンガーMS14”の紹介ページはこちらをご覧ください。
※ ビュッフェ・クランポン グループが開発した最新の「ICON ™ バルブ」(アイコンバルブ)については、〈アントワンヌ・クルトワ〉の“CREATION AC422 Paris”開発インタビューで紹介されています。こちらをご覧ください。