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次田心平氏 Interview

読売日本交響楽団のテューバ奏者として活躍され、洗足学園音楽大学、東京音楽大学、尚美ミュージックカレッジ専門学校、ダ・カーポミュージックスクールで若手奏者を指導されている次田心平氏。そのご経歴や現在の活動、また愛奏する〈B&S〉のテューバの各機種について、お話を伺いました。(取材:今泉晃一)


先生の演奏には常に歌がある

  テューバを始めたきっかけはどんなことだったのでしょう。

次田(敬称略) 中学校の吹奏楽部です。兄が2人とも吹奏楽部でホルンとユーフォニアムをやっていましたので、当然のように自分も入りました。かなり活発な部活で部員も150人くらいいました。それで、入部して最初に男子だけ10人くらい集められて「テューバを2人決めなさい」と言われて、じゃんけんで負けたパターンですね。ただ、早いうちから「将来テューバでやっていきたい」と思うようになり、2年生のときには当時高円高校音楽科の教員をされていた鹿島三嘉先生に習い始めました。

  高校から音楽高校だったのですね。

次田 はい。当時の堀川高校音楽科です。兄がそこにいたという影響も大きかったですね。「コープラッシュ」の練習曲なども、兄が吹いているのを聴いて知っていたので、難しいという意識がなく吹けるようになっていたと思います。本当に助かりました。

  先生はどなたに?

次田 堀川高校音楽科はそれまでテューバの学生をとっておらず、僕が最初の生徒でした。それで京都市交響楽団にいらっしゃった武貞茂夫先生を希望したところ、来てくださるようになりました。

  どんな高校生活でしたか。

次田 すごく自由でした。週2日レッスンのために授業がない日があって、自分の好きに時間を使えました。土日はコンサートを聴きに行ったり、マスタークラスを聴講したり。それから、指揮者の佐渡裕さんの出身校なので、毎年振りに来てくださったのがすごく嬉しかったです。

  その頃よく聴いていたのは、どんなプレーヤーですか。

次田 テューバだとサム・ピラフィアンとか、ジーン・ポコーニのCDとか、よく聴きましたね。あとフィリップ・ジョーンズ・ブラス・アンサンブルとか。カナディアン・ブラスは実際にコンサートにも行きました。

  大学は京都市立芸術大学に進むわけですね。

次田 大学でも武貞先生に師事しました。レッスンは全然厳しくなかったですが、高校生の早いうちからオーケストラスタディも教えてもらっていましたし、ワーグナーの《ニーベルングの指環》の漫画も先生に借りて全巻読みました。当時は話が難しくてあまり理解できていなかったかもしれませんが(笑)。レコードを聴かせてもらったり、楽器のことやいろいろなプレーヤーのことを話してくれたりもしました。

何より、先生の演奏には常に歌があるんですよ。実際に声で歌っていましたし、僕も一緒に歌うことが多かったです。楽器を吹くのもそれと同じなんです。ウォームアップでも、先生の音は出た瞬間から声なんです。高校生のころからずっとそう教わってきましたので、そうしないことが違和感のようになっていました。
それから、思ったことをそのまま音にするということ。つまり、頭からダイレクトに音にするにあたって、邪魔するものをなくしていくという風に受け取っていました。

当時、関西にはマスタークラスでいろいろな人が海外から来ていましたから、よく聴きに行っていました。でも武貞先生の音を聴くと、「やっぱり先生すごいな」と思いました。しかし武貞先生の先生であるロバート・トゥッチ先生の音もやはり素晴らしかった。後に東京に来られた時にもお会いしてレッスンしてもらったり、一緒に観光したりしていました。そのときに自分のB&SのPT6という楽器を持って行ったのですが、僕の楽器を先生が吹いた音を聴くとびっくりしました。まさに音源で聴いていたアーノルド・ジェイコブス氏と同じ音がするんですよ。

  大学時代に印象に残っていることは?

次田 トロンボーンの人たちと一緒に、しょっちゅうオケスタ(オーケストラスタディ)をしていました。それも、できるだけ響くところでやっていました。京都芸大だと玄関のところにみんな並んで吹いたりとか。
個人練習のときも、階段の下の響く場所で吹いていましたね。今は、なかなか廊下で吹くのも許されないことが多いと思いますが、狭くて響かない部屋で吹き続けると、音が止まってしまいますから。

次田心平氏


例え全音符であっても「意志がある音」を出そうとしています

  大学を卒業してからオーケストラに入るまで短かったですよね。

次田 卒業した年にオーディションを受けて、日本フィルに入りました。早いうちからオーケストラに入りたいという気持ちは持っていて、オーケストラに入れなかったら留学しようかとも考えていました。

  留学するとしたらどちらに?

次田 アメリカのインディアナ大学ですね。高校2年のときにペラントゥーニさんがセントルイス・ブラスクインテットで来日して、高校でマスタークラスをしてくれました。そのときにレッスンしてもらい、「インディアナにおいで」と言っていただきました。
ペラントゥーニさんのレッスンは本当に楽しかったんです。アレック・ワイルダーの《エフィー組曲》を演奏したのですが、先生がお手本を吹いてくださって、そのニュアンスを真似して吹くということを繰り返して、何か自分の持っている力を引き出されるような印象でしたね。

  結局留学はせずに日本フィルに入ったわけですが、プロのオーケストラはいかがでしたか。

次田 あらためて、オーケストラの難しさを思い知りました。タイミングとか音程とか、実戦でしか身に付かないものがあるじゃないですか。日本フィルのやり方というものを叩きこまれた気がします。でも不安な気持ちとかはなく、伸び伸びと勉強させてもらったので、早く入ってよかったなと思いますね。
当時トロンボーンの首席に箱山(芳樹)さんがいらっしゃって、よく2人で一緒に吹いたりしていましたが、「教えてやろう」という感じでもなくて、結局は自然に寄せていけたように思います。勝手に日本フィルのサウンドになっていったような感じでした。指揮者によってもだいぶ変わりますしね。

  指揮者って、テューバのことをどのくらい意識しているものなんですか。

次田 それも指揮者によります。僕は、意識してくれる人の方がやりやすいですね。出るところで合図をくれるし、どう吹いてほしいかも教えてくれますので。

  大変だったことはありますか。

次田 ありますあります(笑)。日本フィルではないのですが、ブルックナーでものすごく音量を落とせと言われて、小さい楽器で吹いたこともあります。そのときはfがいくつ付いていても、全部mf以下で吹きました。楽器を吹いていなくても「うるさい!」と言われることもありました。しかし、わかる方も多いと思うのであえて名前は出しませんが、本当に素晴らしい指揮者でした。ゆっくりの曲でも音楽が常に流れていって、決して止まらないんです。

  2008年に読売日本交響楽団に移りましたが、オーケストラ自体の差というものも感じますか。

次田 もちろん違いはあります。でも、同じオーケストラでもメンバーが変わることで変化します。読響にはもう14年いるので、オーケストラの変化を感じられることがすごく面白いです。特にテューバというポジションは全体を聴きやすいですからね。

  さきほど「歌うように吹く」というお話が出ましたが、オーケストラでもやはり同じような意識になるのですか。

次田 「歌う」という表現で合っているかどうかわかりませんが、例え全音符であっても「意志がある音」を出そうとしています。ただ音を伸ばすというのは違和感を覚えるので、「そういう表現」としてあえてやるとき以外はやらないですね。

次田心平氏


ソロも含めて、一つの延長線上にあるという感覚

  次田さんは金管アンサンブルをはじめ、様々なアンサンブルに参加されていますよね。

次田 自分でも恵まれていると思います。例えば「侍BRASS」などは普段オーケストラでやっているプレーヤーと、ジャズミュージシャンの融合というのが面白く、オリジナリティがすごく強いアンサンブルです。ほとんどオリジナルの曲で勝負するというのも、すごいことだと思います。ユーフォニアム・テューバ・カルテット+打楽器の「The TUBA band」は最近活動できていないのですが、またやりたいと思っています。ユーフォニアムの外囿祥一郎さんとの「ワーヘリ」も活動を続けていて、あちこちで公演があります。今はピアノの松本望さんと3人で演奏しています。曲もどんどん増やしています。

  それぞれのグループで役割もまるで違いそうですね。

次田 「侍BRASS」は下のパートでどっしり支えるというイメージでやっています。「アークブラス」はフィリップ・ジョーンズ・ブラスアンサンブルのオマージュですので、E♭テューバを使いたいと思い、実際にそのために買って、指使いとか四苦八苦しながらやっています(笑)。「ワーヘリ」はメロディとハモりというのが新鮮ですね。
オーケストラではまた全然違う役割があり、でもどれにも共通している部分もあるので、互いに自分の中でいい影響があると思っています。ソロも含めて、一つの延長線上にあるという感覚ですね。

   YouTubeで、マウスピースの内側に細いパイプを入れてバズィングするという練習法を上げていて、興味深いと思いました。

次田 あれは、息をまとめる練習です。テューバのマウスピースは大きいから息が散らばりやすいんです。大きいマウスピースをフルに使って吹こうと思うと、息が散らばってロスしてしまいますから、息をまとめることを意識するための補助としてパイプを使うようにしました。基本、トランペットとかトロンボーンと変わらない息で吹くべきなんです。
それから教えるときに言っているのが、楽器の一番素直な状態は付けたマウスピースを叩いたときの「ブン」という音だから、同じ感覚で吹けばいい、ということ。次はマウスピースに口を当てて、バズィングではなく、ただ「ポポポポポ」と息を出す。そうすると楽器は自然に鳴ります。こういう自然な状態でないとできなことが多いし、それ以前の部分でトラブルが起きている人もたくさんいるので、まず自然に楽器が鳴る感覚をつかむといいです。

  若い人に教える機会が増えている?

次田 そうですね。教えることに関しては、これからもっと力を入れていきたいです。教えることでけっこう発見もあるんですよ。「こういう場合はこうした方がいいんだ」と勉強になることも多いです。自分が悩まなかったことで止まっている子もいて、それまで考えていなかったことを考えなければならない。
でも一番大事にしているのは主体性ですね。与えられているだけではダメです。先生に言われたことだけ必死にやっても、上手くはならない。「それを自分のやりたいことにどう使うか」を考えないと、やらされるだけになってしまいますから。まず自分で「こうしたい」というプランがないと、そのレッスンでよくなったとしても、次のときに見事に元に戻ってしまうんです。

次田心平氏


生徒の楽器を選びに行ったのに、自分の楽器を買っていることも

  さて、次田さんの楽器は?

次田 どれからいきましょうか(笑)。最初から話すと、僕が中学2年のときに最初に持った楽器は〈B&S〉の“3198”、“PT6”です。習っていた先生に「将来やっていきたいんだったらC管を持っていた方がいい」と言われて、よくわからずに買ってもらい、「カッコイイ」と思っていました。まだ“PT6”ができたばかりの頃でしたね。後になればなるほど「いい楽器だなあ」と思うようになっています。楽器に教えられた部分も多かったですね。もちろん今も大事に取ってあります。

次は大学2年生のときに、F管が必要になり、〈B&S〉の“5099”を買いました。「定番」ということで選んだのですが、これにして正解だったと思います。いろいろな人に「音がいい」と言われましたし、コンクールなどもずっとこの楽器で受けていました。
アメリカに行ってペラントゥーニさんにレッスンを受けたときも、“5099”だけ持って行きました。オーケストラに入ったときも“PT6”とこの“5099”だけです。“5099”はオーバーホールしていまも大事に使っています。

それから、C管はロータリーの〈B&S〉“3098”も使っています。この楽器は3198とボディとベルは同じで、中のシステムだけが違うというものです。
オーケストラではヤマハのヨークモデル(YCB-826S)とか、〈B&S〉の“MRP”も使います。この間の《パルジファル》ではずっと“MRP”を使っていました。C管だけれどB♭管のベルで、ボディは“3098”を細部を変更して組み合わせているというものです。

  今、何本くらいお持ちなんですか。

次田 20本近くあると思います。最近入手したのはボーランド&フックスがアマティの傘下で作った古いB♭テューバ。カイザーテューバの元になった楽器で、ドイツ以外にはめったに出回らないものです。コロナ前にポーランドの楽器屋さんからeBayで買ったのですが、ケースもなく日本に送る手立てがないということになってしまって。でも留学した僕の生徒がソフトケースを買って、うまく梱包してようやく送ってくれたんです。大きな楽器なのに持ってみると軽くて、音も独特のものがありますね。
あと、スーザフォーンもヘリコンバスも持っているんですよ。使う予定はないですけど(笑)。

  楽器はどういうときに買うのですか。

次田 楽器屋さんに行く機会が多いじゃないですか。それで「こんな楽器が出ました」と言われると、つい欲しくなってしまうんですね(笑)。それこそ、生徒の楽器を選びに行ったのに、自分の楽器を買っていることも多いです。
しかも、テューバってそれぞれの楽器にすごく特色があるんですね。最近だとアークブラスでフィリップ・ジョーンズのレパートリーをやるのにベッソンのE♭管を買ったら面白くなってしまって、もう1本フロントアクションの楽器を買ってしまったということもあります。
本当は、「これしかない」という状況になってくれた方が楽かもしれません(笑)。

  ありがとうございました。

※ 次田心平氏が使用されている楽器の紹介ページは以下をご覧ください。
〈B&S〉CテューバMRP-C “DANIEL PERANTONI
〈B&S〉Cテューバ”3198
〈B&S〉Cテューバ”3098
〈B&S〉Fテューバ”5099/2/W

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